『白鯨との戦い』は白鯨との戦いの映画ではなかった

というわけで『白鯨との戦い』観てきた。

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私は鯨が好きだ。なんと言っても「地上最大の生物」だ。デカイ生き物に憧れない男の子はいないだろう。
そんな奴と海の男たちが戦う海洋冒険怪獣映画を期待して観に行ったのだけど、この映画の主題は実はそこではなく、巨大なマッコウクジラに船を沈められたあとの壮絶なサバイバルこそが、根幹であった。
しかしこう私は思いきり『白鯨との戦い』というタイトルに引きづられ、ほとんどノー情報で観に行ってしまったせいで、そうしたドラマについては、「あれ、これこういう映画なの……? え、え……?」という混乱が大きく、ちゃんと受け止められた感じがしない。原題の"In The Heart of sea"というダブルミーニングを含んだタイトルのままがよかったと思う。

そんなわけで、一本の映画としての評価はどうだったか、と言われるともう一回観てこないとできないのだけど、シーンシーンでは大変よい場面があったので、かなりおなかは一杯になれた。

まず第一に帆船って実に緻密な機械なんだなって驚き。風に帆を受けて走るって字面だけだと至極単純そうだし簡単そうに聞こえるんだけど、実際には一本のマストだけでもいろんな角度の帆があって、それのどこを広げて、どれを畳むかをきっちり見極めないといけないし、もちろん刻一刻と変わる天候に合わせて、操作しないといけない。揺れる海の上で――最悪の場合、嵐の中で、何十人もの男たちが、何百本という数のロープを操って、命がけでその帆を畳んだり開いたりする。うおう、帆船というシステムはこうやって動いているのかぁ、と素直に感心しておりました。白鳥士郎先生の帆船ラノベ『蒼海ガールズ!』とか、きっとこれ観てから読み返すと全然違うんだろうなぁ。

あと捕鯨シーンの細かなディテールとかね。煙突が火を噴く、という表現とか、うお、こんなにデカイ獲物を捕ると、解体はダンジョンものになるのか……という。

そしてやはり主役怪獣の白鯨。超デカイしヤバイし超格好良かったです。正直できれば2時間ずっとコイツが泳いで暴れるところが観たかった。デカイやつは強い、というシンプルな脅威。そしてその流線型の体で自在に海を泳ぐ美しさ。執拗に主人公たちを脅かす執念深さ、恐ろしさ。あるいはアップになった時の傷だらけの肌が無言で物語る時の蓄積。ああもう、ライバルの不在が惜しい。主人公たちの乗る帆船では役者不足だった。マジで瞬殺でするよ。ほとんど戦いになってない。コイツの強さを描ききるにはライバル怪獣がどうしても必要だった。大ダコとか大イカとか、あるいはもう一匹の巨大鯨とか、愚かな人類の帆船をダース単位で沈めながら太平洋怪獣決戦を繰り広げて欲しかった。そう、なんだったら、ノーチラス号ニキが出てきてくれたって私はいっこうに構わなかった。白鯨によりエセックス号を沈められて漂流する船乗りたちを救出した謎の潜水艦。「私のことはエイハブ船長と呼べ。この船は軍艦ではないのだからな」そうして深海を舞台に起る超生物と潜水艦の戦い。だが白鯨はノーチラス号すらも圧倒し……「そういう映画じゃなねーから、これ」というのはわかっているのだけど、けれどもそんな妄想してしまうぐらい、白鯨は強く、デカく、美しかったのです。

 

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