「S20/戦後トウキョウ退魔録」読んだ。

というわけでノベルゼロ創刊ラインナップの一冊、伊藤ヒロ峰守ひろかず両先生による共著『S20』を読んだぞ。

 

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昭和20年代。未だ敗戦の傷痕が残る東京を舞台に、史実の影に暗躍する巨大な鉄人や金色の骸骨や妖怪たちの謎に挑む退魔師コンビを描く……というかこれ『コンクリート・レボルティオ』の前日譚と言ったら多分10人中9人信じると思います。

戦後をモチーフに偽史を語るというテーマといい、巨大ロボット、変身ヒーローや妖怪といった往年の名作へのリスペクト意識といい、びつくりするぐらいよく似てます。作家さんふたり、書いてる途中で、『コンレボ』見て頭抱えたんじゃないかしら?

んでもまるっきり同じかというとそうでもなく、怪獣や宇宙人や妖怪が存在するもうひとつの戦後史を語ってく『コンレボ』に対し、こっちは「妖怪たち超常の存在は人の記憶からは消えていくけど、うっすらと残ったその残滓が後のフィクションを生み出した」という形になっている。つまり僕らが知っているあの名作の元ネタとなった事件を描く、というのがこの『S20』。そんなわけで、あの有名作品の影にも、あの大ヒット作の裏にも、そしてあの有名作家の裏にも実はこの退魔師コンビがいた! という話であって、いわば伝奇&戦後史版『フォレスト・ガンプ』。

というかぶっちゃけていうと、カバーは超真面目だし、語り口は伝奇&歴史の重み溢れるシリアスなものですが……これあれです、シリアスな笑いです。だってこう、えんえん、戦後がどうのこうのとか書いてて、結局、最後だいたいダジャレなんだもん。いやもう、真面目な顔して「申す 裏谷 申す 裏谷」とか「雪男(イェーティー)」とか言ってんじゃねぇよ、笑い殺す気か!なんつーか、この懐かしのアニメマンガ特撮ネタ&ダジャレ&強引なこじつけ&真顔の語り口って、荒山徹先生から柳生と朝鮮妖術師抜いて戦後史ぶちこんだら、この作品になるんじゃないかしらって感じ。

『コンクリート・レボルティオ』が「架空の日本における映像の20世紀」みたいなシリアスよりだとしたら、『S20』は史実をネタにどれだけ真顔で大ボラをふけるかをふたりの芸人もとい作家が競い合う「戦後史ネタ大喜利」みたいなノリです。そういう意味で、伊藤ヒロ峰守ひろかずというライトノベル作家ならではの、一見シリアスでけども実は笑いに満ちた作品だと思います。

 実は不勉強で峰守ひろかず先生の作品はあまり読み込めていないので過去作との比較はできないのだけど、伊藤ヒロ先生のパートに関して言えば、なんというか『魔法少女禁止令』や美少女ゲームのシナリオで見せるマニアックなこだわりと、『女騎士さん、ジャスコ行こうよ』なんかで見せる「ちょっとおまえもう少しまじめにやれよw」という底抜けのいーかげんさが、ひとつの作品の中で同居して+αを生んでおり、個人的には伊藤ヒロ作品のなかで一番気に入りました。

 そんなわけで『コンクリート・レボルティオ』のファンはもちろんですが、「真面目な顔で大ボラを吹く」お話が好きなら是非オススメです。

 

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