男の娘力士、カエル様のコーチになる――城平京『雨の日も神様と相撲を』

相撲好きの両親の元に生まれ相撲漬けの毎日を歩んできた中学生、文季。

だけども彼は、体格に恵まれないどころか、女の子に間違えられてしまうような華奢な体格と美貌の持ち主だった……。

男の娘が、相撲。
華奢な男の娘がフンドシ……じゃないマワシ一丁で、ガタイのいいアニキたちと相撲!
わぁい!

……的な壮絶に不純な動機で読み始めた城平京先生の、『雨の日も神様と相撲を』なのだけど、これがとんでもなく面白い"相撲伝奇SFミステリ&男の娘×怪力長身女青春ラブコメ"だった。
その興奮も収まらぬままこれを書いている。
なんだそれはと言われそうだが、本当にそういう要素が全部入ってるんだからしょうがない。

物語は、そんな主人公が両親を交通事故で失ったことで叔父に引き取られることとなり、とある小さな田舎の村へと引っ越してくるところから始まる。知る人ぞ知るブランド米の生産地して栄えるその小さな村は、カエルを神様として信仰し、そのカエル様に捧げる神事として盛んに相撲が執り行われている、奇妙な村であり、転入早々、早速文季も取り組みを挑まれる。

”そっちのバランス感覚と上半身の力に自信があうから、腰を高めにして取り組む癖があるのはわかった。僕は見た目以上に力のある押しができる。立ち会いから正面から受けてくれれば簡単にそっちの体を浮かせ上下に揺さぶれると踏んでたんだ。土俵際に追い込めれば、不用意に寄り返そうと前に出てくるのまで”

……と語るように、体格差を補うべく、徹底的に理詰めの相撲をとる彼は、そのことで、あれよあれよと中学の、そして村の人々の、相撲コーチになっていく。そんな彼に、思いもかけない相手がコーチを頼んでくる。

カエル。

立って喋って相撲を取るカエル。
カエル様。
この村には、本当に、カエルの神様がいらっしゃったのだ。
そのトノサマガエルだのアマガエルだののカエル様たち、最近、村に突然、現れた余所者(外来種)のイチゴヤドクガエルに連敗しており、このままだとマジヤバイということで主人公に目を付けたのである。
かくして、主人公はカエル様に仕える巫女の一族であり、身長170センチで、”太っているとは感じなかったが肉付きはしっかりして、お尻が大きめ”なヒロインであるところの真夏とともに、カエル様たちのコーチになるのである。

体格の不利を補うべく、極めてロジカルな相撲理論を修めた主人公が、「立って喋って相撲を取るカエル様」なんて極めてファジーでファンタジーな連中のコーチになる。
このギャップがまず超面白い。しかも、それに対し「いやおまえらマワシとか締めてないし骨格も人間とは違うじゃん。とりあえずおまえらのことwikiで調べてくるから、それまで待て」と主人公は返すのである。
これは一体、ファンタジーなのかリアルなのか。まさしくマジックリアリズム

そして、さらにそこに、古事記に起源を持つ神事としての相撲という側面であったり、あるいは近隣で発生した謎の殺人事件であったり、そしてあるいはカエル様に仕える巫女が60歳を迎えると”カエルの花嫁”になるという伝承の裏に潜むグロテスクな真実であったり、相撲を愛しながらも体格という絶対の不利を持ってしまった主人公のコンプレックスであったり、あるいはそんな主人公と、170センチの怪力巫女・真夏ちゃんというまさに正反対なふたりの関係であったり、と様々な要素が入ってくるのだが、真に驚くべきは、それが文庫本一冊のうちに一個の物語として、きっちりまとまってしまってることである。主人公がまとめてしまうのだ。本当に。

「雨が細く降る中、日本家屋の縁側で、やけに小さな男子とやけに大きな女子が並んで座り、ホットケーキを食べていて、その目の前では無数のカエルが相撲を取ってる。これをこの世のことと思える人はどれくらいいるだろうか」

 大きな女子、というのが障ったのか、真夏は素っ気なく言う。

「でも現実だから」

「そうだね。それが一番異常な気がするよ」

男の娘力士な主人公が、長身&怪力ヒロインとのかけあいしつ、強豪海外カエル力士に負けそうな日本カエル力士たちを鍛え、カエル神様に仕えるヒロインを土地の呪縛から解放し、近隣で起きた殺人事件の謎を解き、かつ自分が相撲を取る意味を見つけ出し、そしてカエル様の正体に迫り、そしてなんだかんだいってヒロインと、ボーイミーツガール。つまり"相撲伝奇SFミステリ&男の娘×怪力長身女青春ラブコメ"

スポーツものの熱さ、ミステリの論理性、伝奇小説のおどろき、青春小説の甘酸っぱさ、ラブコメの笑い。それらがきっちりひとつの物語になって、わずか一冊の文庫にまとまっている。なんでそんなことができるのかわけわかんない。けど、ほんとうにそうなんだから、しかたない。

いやー、本当に、面白かった。なので、みなさんにも是非、読んで頂きたい。

そしてこう、ベストセラーになった暁には、できることなら女相撲&男の娘つながりで上連雀三平先生にマンガ化していただきたい、とそう思った次第であります。

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amzn.to